2015年5月10日日曜日

メルセデスAMG GT 「スーパーカーの新時代が来た?」

  「ランボルギーニ」や「アストンマーティン」といったスーパーカー・ブランドのクルマが多く流通する地域は、今では完全に「中東」「中国」へとシフトしているようです。「ブガティ・ヴェイロンを持っている人と知りあいだよ!」と言われ、へぇ〜と思って聞いてみると、「その人は香港に住んでいる中国人だけどね』といった顛末だったりします。それらの地域は今ちょうど30年前の日本のバブルに近い経済状況になっていることで、クルマにお金をかけることに非常に意味が高いのだと思います。バブル期の上層階に位置する顧客の要求は、誰も持っていない「レア」な孤高のラグジュアリー・スーパーカーへと突き進みますから、高級車の価格もどんどんつり上がっていく傾向にあります。中国や中東で商売する人にとって必須なものといえば、いまでも「パテック」や「ヴァシュロン」クラス(つまり最上級)の高級腕時計なんだそうです。

  日本や欧州のような成熟市場では、クルマや時計にやたらとお金をかけなくても、いくらでも「信用」を担保する方法はあるので、年商100億の会社を作るために、4000〜5000万円もする「ファントム」「ミュルザンヌ」「アヴェンタドール」に乗る必要はほとんどないです。しかし、クルマは全て軽自動車で良いとも思いません。やはり成熟市場といえども、ある程度のクルマは必要で、それぞれの目的に合った「それなりのクルマ」を選ぶことには、大きな意味(効用)があります。例えば、私はクルマがとても好きなので国産・輸入モデル問わずに気になったらすぐに試乗に行ってしまうのですが、当然にディーラーにはクルマで出掛けていきますから、「メルセデス」「BMW」「レクサス」「アウディ」「ポルシェ」といった高級車のディーラーにでも気兼ねなく入れるように、某国内メーカーのフラッグシップモデルを使っています。

  これは決してそうしたブランドへ「国産のコンパクトカーでいくのは恥ずかしい!」という意味ではありません(まあ多少は気になりますが)。あくまでも試乗したあとに、自分のクルマに戻って帰る時に、惨めな気分にならないようにするためです。日本のブランドのフラッグシップモデルならば、とりあえず「ポルシェ911」に乗っても、「レクサスLS」に乗ってもそれほどに落差を感じることはないですから、試乗を終えて自分のクルマが嫌いになったなんてことは1度もないです。「走行性能」も「乗り心地」も「内装」も揃って高いレベルにありながら、維持費もそれほど高くないので、壊れるまで買い換えなんてできないと試乗に行く度に感じます。そしてがっかりしないだけでなく、試乗するクルマの特徴を理解する物差しとしても良く機能しますし、ドライバーが受ける「フィール」を比較的に判断しやすいと思っています。

  試乗して見積もりを貰ってあれこれ実際に考えると、今の日本のような成熟市場で今後は存在感を増してくるであろうクルマが、「レンジローバー・イヴォーグ」「レクサスRX/NX」「ポルシェ・マカン」といったスタイリッシュでラグジュアリーなファミリーユースな高級SUVでしょうか。そしてそれよりも「プライベート感」「非日常」「走り」を求める人々には、「アウディTT」「ポルシェ・ボクスター/ケイマン」のような2シーター・ラグジュアリーをセカンドカーとして所有するスタイルが、そこそこ広まりそうな予感です。もちろんこれら500~800万円くらいの価格帯は決して安くないですし、フーガHVやレジェンドが買えてしまうと考えると「あれれ・・・」という気がしますが、それでもアルファードの代わりにこれにする!と言われれば納得できる部分もあるのではないでしょうか。ここでちょっと気がつくのが、傘下のランボルギーニを中東や中国で売りまくりつつも、同じく傘下のポルシェで上手く成熟市場のニーズを拾っているVWグループの見事な戦略です。

  そんなVWグループに対抗すべく、古豪ブランド・メルセデスが新たに日本でも打ち出してきたのが、上位ブランド「メルセデスAMG」です。狙いとしては従来の「AMGモデル」をややブランド価値が曖昧になってきたメルセデス本体と切り離すことで、「価値ある高性能車を、素晴らしい価格で提供する!」といった新たなステージのブランドとして再構築することのようです。AMGモデルにはフェラーリやランボルギーニと同じように、マイスターの手組みによって作られる「専用チューンエンジン」が載っていて(一部は違いますが)、プレミアム商品を成立させるだけのストーリー性に富んでいますし、その精神に共感出来るならば2000〜3000万円に達する価格でも安く感じるくらいです。しかし成熟市場ではやはり3000万円以上する「趣味のクルマ」は売りにくいのが実情のようで、これまでのAMGのイメージを牽引していた「SLS」はだいぶ苦戦したようで、中古車市場でもタマ数が少なく、もっともリーズナブルなモノでも2000万円の価格が付いています(ちなみにSLSの本体価格は2560万円〜)。

  もちろん2000万円台の住宅を建てる日本人はそれこそたくさんいますから、3000万円のスーパーカーを買える人だってまだまだ少なくないですし、現実に東京の中心からだいぶ西に寄ったやや辺鄙な私の自宅の周辺でも何度かSLSを見かけたことがあります。それでも30年前のバブル期のようにサラリーマンがこのクルマに群がらないのは、(上から目線で恐縮ですが)日本人に大まかな価値観が身に付いてきたからだと思います。これまで舶来品に一方的に流され続けてきた日本人の意識を、ガツンと一発変える非常に大きな仕事をしたのがもちろん水野和敏氏が率いたGT-Rの開発チームというわけです。

  何が言いたいかというと、「Before・GT-R」と「After・GT-R」で日本のみならず成熟市場のスーパーカーに対する認識は大きく転換し、GT-Rショック(革命)を経たことで日本のスーパーカー市場は、「植民地からの独立を果たした」ということです。海外の高級ブランドの「言い値」で日本人ユーザーが有り難がってクルマを買う時代は2007年を境に終焉しました。そんな時流を全く読めずに登場した「BMW i8」は見事に惨敗し(あまり売る気はないようですが)、逆に時流を読み過ぎた「ジャガー・Fタイプ」は、なんでそんなに安いの?とツッコミが入りそうな価格設定になっていたりします。

  そして「SLS」の代わりに投入された新生「メルセデスAMG」のイメージリーダーとなる「GT」もこれまた「あっけにとられる」価格設定で、なんとSLSよりも1000万円も安い「本体価格1580万円〜」となっています。上級モデルの「GT・S」も(安いという意味で)破格の1840万円〜となっていて、なにやらこのフラッグシップの降臨に合わせて、1830万円だった最速セダンこと「E63・S・4MATIC」の価格が1727万円にこの4月から改定されたりしています(特にエンジンの仕様変更等はありません5.5Lターボのままです)。明らかにこれまでのAMGとは別のマーケティングが発動しているのを感じます。

  「メルセデスAMG」の公式HPを見ると、どうやら「様々なボディタイプ」が選べることを特徴にした、新しいスタイルの「高性能車ブランド」を目指しているように感じます。「コンパクト」「セダン」「ステーションワゴン」「クーペ」「ロードスター」「シューティングブレーク」「SUV」の7分類という大所帯を、大資本グループ傘下のレクサスやアウディに先んじて揃えた戦略は果たして上手くいくのかわかりませんが、ライバルはいまだに「上級レクサス」「上級アウディ」のブランド価値さえ確立できていない段階なので、それなりの「先行者利益」があるように思います。この新ブランドの求心力に引き寄せられ、700万円で「GLA45」を購入した顧客を、さらに「C63」「E63」「CLS63」へと誘導していくことになりそうです。

  スカイラインと同じ栃木工場のラインで製造されるGT-Rよりも、専用のAMGファクトリーで手組みされる「メルセデスAMG」の希少性・ストーリー性が薫るモデルの方が、同じお金を払うなら満足できるんじゃないですか?といわれたら、迷いが吹っ切れてハンコを押してしまいそうです。もちろん「日産GT-R」だってエンジンの原価だけで320万円かかってます。発売当初の777万円という本体価格の40%以上を占めている、高付加価値なクルマなのは間違いないですし、日本市場に価格破壊をもたらしている「ジャガー」のV8、V6エンジンに使われるスーパーチャージャーは、「日本イートン」という外資系ではありますが、従業員20名の日本の中小企業の技術力が光る「逸品」です。

  今後は「メルセデスAMG」「ポルシェ」「GT-R・日産」「ジャガー」がそれぞれのスピリッツを十全に発揮して、高性能車の可能性をさらに切り開いていってくれると思います。「高剛性ボディ」vs「アルミ軽量ボディ」、「8気筒」vs「6気筒」、「ツインターボ」vs「スーパーチャージャー」vs「自然吸気」、「RWD」vs「AWD」、「DCT」vs「ステップAT」などなど、まだまだクルマ好きを満足させてくれるに足るだけの多くの選択肢を与えてくれるブランドにはぜひ頑張ってもらいたいです。レクサス、BMW、キャデラック、フォード、アルファロメオ、ホンダ、マツダといった業績が好調な自動車グループの高性能を謳うブランドにもさらなる奮起を期待したいものです。

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