2014年6月10日火曜日

BMW・VISION FUTURE LUXURY 「BMWもREBORNする?」

  BMWのラインナップが増え過ぎて、マニアでもない限り全グレードなんて把握できないくらいになってしまいました。それでもグローバル販売の「重心」は今も尚、多くの市場で売れている3シリーズや5シリーズが担っていて収益の柱であることは変わっていないようです。しかし時代ともに市場のトレンドは変化し、かつてBMWがメルセデスから奪い取ったD/Eセグプレミアムカーのシェアを、今度はアウディや(比較的)低価格で高品質を掲げるレクサス・インフィニティそれにヒュンダイの上級グレードなどに脅かされつつあり、BMWも年々商売がやりにくいと感じてきているようです。

  BMWは1990年代に栄華を極め、2000年代中頃までは好調を維持していましたが、2004年にドイツ以外の地域(米国サウスカロライナ)での生産が始まり、廉価グレードのBMWが世界にバラまかれ年産100万台を超えたあたりから変調が始まりました。現在では南アフリカ・インド・中国の新興国3拠点を中心に生産能力を増強しつつあり、グローバルで年産200万台までの拡大を目指しているといわれていますが、先進国を中心に販売が伸び悩んでいて150万台前後で足踏みが続いています。

  専門家の分析によると、BMWは従来は高性能セダンに特化した技術開発をコアコンピタンスとして、独自の地位を築いてきましたが、その一方で量産化へのコスト管理や小型車開発技術は苦手としていました。それでも経営陣は業界トップクラスの収益体制、具体的に数字を挙げると総資本利益率(ROI)で26%だそうですが、に固執しつつも生産台数を倍増させるという無謀なプランを強硬に推し進めたため、徐々に機能不全に陥ってきているといわれています。ちょっと悪口を書くと、トヨタとはとても比べ物にならないお粗末なコスト管理の元で作られた3シリーズが、はるばる南アフリカから日本まで運ばれてきて、販売コスト&利益を賦課して最終的に450万円とかいう本体価格で売られています。トヨタは愛知県で3シリーズよりも高品質の部品を使って、同じようなクルマを作って約250万円で売っているのです。BMW離れは必然の成り行きと言えます。

  先進国のユーザーがBMWに求めるものは、ドイツで作っていて高品質で先端技術を盛り込んだ、唯一無二の高性能セダンだったりするわけですが、その期待にある程度は応えることができるであろう「BMWらしい」モデルを日本で買おうとすると、もっともお手頃なものでも本体価格がなんと902万円!の「535i」というグレードになります。さすがはROI 26%!といったところでしょうか・・・。とりあえず「一般論」として日本で新車のBMWを買うなら1000万円以上のものじゃないと「満足」はできないと思います。失礼千万ですが、本来のBMWの「ユーザー像」に適った人々の意見を要約すると、日本の津々浦々で見られる1000万円しないモデルを満足そうに乗っている人は、「ブランドの本質」を気にしない、あるいは分らない人達と見做しているそうです・・・恐ろしや。

  ちなみに日本で買うと乗り出しで1000万円を超えてしまう「535i」はアメリカではこれよりも相当にやすい55,100米ドル(約550万円)で買えるのですが、それでも10,000米ドル程度安い日本や韓国メーカーのライバル車に徐々にシェアを奪われているようです。まあ世界ではそんな評価に甘んじているクルマに1000万円も払うならば、とある著名なアメリカ人ジャーナリストが「自動車史上で最も完璧なクルマ」と呼んだレクサスLSを買った方が良さそうだなと思うわけです。

  そんな曲がり角を迎えていたBMWが、いよいよイメージを一新するような次世代モデルを次々と発表しています。今やBMWジャパンが最も期待しているといっても良いモデルが小型EVの「i3」です。このクルマをBMWが手掛ける必然性があったのか?という疑問はとりあえず置いておいて、デザインを軽視して普及に失敗した日産リーフや三菱Iミーブといった国産EVとは全く別次元の「ワクワク感」を素直に評価したいと思います。いよいよBMWにも1000万円以下(半額の500万円ほど)でも買う価値のあるクルマが出てきました。

  アクセラを押しのけてWCOTYデザイン賞を見事に獲得した「i3」とほぼ同時に発表された「i8」もとても興味深いモデルです。デザインが素晴らしいだけでなく、BMWらしい4座の「グランドツアラー」で得意なセダンではなく、ポルシェ911のようなタイプのクルマになっていて、2000万円という価格を忘れてあれこれと使い方が想像できます。3シリーズなみのサイズがあるので、スポーツカーにありがちな窮屈さは軽減されてそうです。もしこれが1000万円前後で発売されていたら、かなりのバックオーダーを抱えて「3年待ち」とかいう事態になりそうな気がします(だから2000万円なのか・・・)。

  そしてこの2台のEVとともにBMWの新たなデザインコンセプトを示しているのが、北京モーターショーで公開された「VISION FUTURE LUXURY」という7シリーズに変わるフラッグシップサルーンの原型と思われるショーカーです。7シリーズでは、メルセデス・マセラティ・レクサスに対抗するだけの魅力が足りないのは誰の目にも明らかだったわけですが、その3ブランドに真っ向から挑む「ラグジュアリーカー」として、局面打開を図る意図がよくわかります。特に素晴らしいのはエクステリアで、現行のSクラス・クワトロポルテ・LSの3台は外装がやや保守的で革新性に乏しいのが「玉にきず」だったりするわけですが、BMWがこれをそのまま製品化するならば、デザイン面で優位に立てそうな実力を感じます。

  内装はライバル3車と甲乙付け難い高品質なもので、去年FMCで話題になったSクラスの内装をもキャッチアップした先進性と世界観を持っているのがわかります。シフトレバーが存在感を発揮しているのがBMWらいしなと思います(さすがにサイドブレーキは無いですが)。これまで敢えて7シリーズを選んできた人の多くは、ライバルモデルには希薄な「ドライバーズカー」としての価値を評価してきたと思いますが、その伝統をしっかり受け継いでいるところに、ライバルブランドの模倣ではない!という気高いプライドを感じます。


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