突然ですが、人間の感性なんてそれほど宛にならないですね。一度は毛嫌いするほどに批判的だったクルマが1、2年経つと「意外といいかも!」と思えてくることが結構あります。マツダファンにもかかわらず発売当初は「セダンにディーゼルってアホでしょ!」と決めてかかっていて、アテンザXDの重くてアクセルもブレーキも怠い意味不明なフィーリングが全く理解できませんでした。しかし1年経って再試乗すると自分のクルマ(GHアテンザ)とは、何から何まで真逆なのにそれはそれで楽しいかも・・・という前向きな印象に変わりました。ただ1年前はマツダの方向性の変化に「頭」が十分についていっていなかったってことなんですが。
そんなクルマがもう1台あります。「車重1340kg 最高出力270ps・・・価格540万円」趣味のクルマに600万円使う人がどれだけおられるかわかりませんが、これはなかなかじゃないですか? もしある時、何らかのきっかけで「小金持ち」になってクルマ道楽ができるくらいのゆとりを持てたら、コレを買ってもいいかなって思いますね。何を「捕らぬタヌキの皮算用」やってんだとか言われそうですが、そういう事を常に考えている人の方が実現する可能性が高いと言われてますし、考えるだけならタダ!しかもとても楽しいですから日夜あれこれ想像しております。
この「プジョーRCZ-R」ですが、メルセデスA45AMGとアウディTT-RSがエンジン出力で凌ぎを削っているなかで、慌ててプジョーが出してきたようなクルマです。360psくらいで争っている2台を追いかけるのに、1.6Lターボの270psじゃちょっと寂しいなと・・・プジョーの苦しい台所事情だけが目に付く、やや「貧乏くさい」スポーツカーといった印象でした。A45AMGやTT-RSよりも確実に安い!というのが取り柄というがなんともケチ臭く感じてしまいます。せっかくスポーツカー買うのにケチ臭いと思われるなんて嫌ですし、おとなしくフェアレディZでも買っておいた方がよっぽど幸せかもしれません。ということで発売当初はまったく理解ができませんでした。
当初は1.6Lターボというスペックにも偏見がありました。やはり気筒当たり400ccだとメカチューニングの幅も限定されて、ターボでひたすら誤魔化すしかなくなるだろうし、しかも絶望的なまでのロングストロークエンジン、しかもホンダやアルファロメオのような極限の高回転を追求できるハイエンドな作りでもない、ただの貧乏くさいダウンサイジングエンジンなので回転数も満足に上げられません。欧州メディアの風当たりも日に日に強まっている「エコじゃない」BMW&PSAの1.6Lエンジンですが、非力なので車重が嵩むX1などのSUVにも使えないことが仇となって、BMWもプジョーも一般モデルへの採用には否定的になっているようで「斜陽」感がハンパないのです。そんなエンジンでも輝けるとしたらどんなクルマか?というと、軽量だけが取り柄ですから単純に軽いクルマということになります。そしてこのBRZ-Rもハイパワーの割に、BMW116iよりも100kg軽いということを考えると、いろいろ手段はあるのでは?という希望的憶測もできます。
そもそもどんなエンジンを持ってきても、スポーツカーが「完全なる機動性」という理想を追求する限りはどうしても不満が出てきてしまうもので、スズキの軽エンジンを載せているケータハム・セブン160のように、軽量化を強引に押し進めることが「ベスト・ソリューション」と言えるかもしれません(まあエンジンなんて何でもいい)。RCZ-Rが達成した1340kgと270psというバランスはポルシェのボクスター/ケイマンに比肩します。「ホットハッチ」が本分であるプジョーがポルシェに張り合うのだから「挑戦」だか「下剋上」と言うべきでしょうが、堂々たるスタイリングは流石の一言で、特にリアデザインの艶やかさは、後から出て来た現行ポルシェ911の「991」にも大きな影響を与えたようです。
フェイスリフトが一度あったとはいえ、デザインが風化しないのも素晴らしいです。もともとも設計はアウディTTのコンセプトをパクったのは間違いないでしょうが、TTをさらに超えていくほどのインパクトが過剰気味であったデザインがだんだんと見慣れてきて、いまではいい雰囲気に収まっている気がします。発売当初の印象はフロントマスクが派手過ぎて全く響きませんでしたし、どう考えても「リトラクタブル・ハードトップ」か「ミッドシップ」を連想するデザインなのに、ただの「FFクーペ」だとという「なんちゃって感」が満載なエクステリアも好きになれませんでした。
内装も当初はベーズ車のプジョー308とほとんど同じでがっかり・・・なんて言われていました。しかしここ数年ではフィアット500やBMWミニが競うようにインパネデザインを改良するのを見て、プジョーも慌てて208のインパネにイルミネーションを取り入れるなど、内装なんて低価格車が拘るものに過ぎなくなっています。欧州のトレンドと言ってしまえばそれまでなんですが、スポーツカーの内装をデコるなんてトレンドはとっくに終わりを告げていて、いまでは華飾をやればやるほど、日産ジュークやスズキハスラーといった小型車の定番となっているカラフルなインパネを連想しますから、スポーツカーのイメージを高めるためとはいえ安易な内装デザインは命取りになる時代になっています。
それでもエクステリアにおけるプジョーデザインの先進性とオリジナリティの「輝き」は、ここで挙げた「ささいな」疑念を全て埋め合わせるに十分なほどで、このクルマを選んだオーナーに「間違いではない!」とくれるだけの価値を証明してくれます。このクルマの小さな荷室に三脚を積んで、夜景の撮影に「出撃」するといった贅沢な使い方をしてみたいなと思う次第です。
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