2015年7月31日金曜日

アストンマーティンV8ヴァンテージ 「知られざる日本スペシャル!」

  今月号のルボランを読んでいたら、1000万円級スポーツモデル対決として、「ケイマンGTS」と「レクサスRC-F」の動力性能の比較テストに目が留まりました。車重1400kgと1800kgを比べるという企画になんじゃこりゃ?という想いを感じつつも、素直に読んでみるとなんでこの2台が選ばれたのか?という意図は十分に伝わってきます。おそらくこの企画は編集部がクルマ2台とサーキットを用意し、清水和夫氏がそれを存分に吟味してその性能と印象を記事にするという段取りになっているようです。

  少々失礼ですが、この2台をブッキングした編集部の人はとてもいい仕事をしていると思いますけど、肝心の清水氏がこの2台が選ばれた意図がイマイチ解っていないのではないか?という印象を受けました。ピュアスポーツの性能基準にするならまちがいなく「ケイマンGT-S」に軍配が上がるでしょうし、単純に一人乗車で限界性能を探るという条件ならなおさらで「レクサスRC-F」に勝ち目は無いわけです。しかし今回は「こんなアンフェアな条件でRC-Fを貶めるな!」なんて思いは少しも湧きませんでした。

  テスト結果も少々意外で、400kgも重い「レクサスRC-F」が「ケイマンGT-S」とブレーキ性能がほぼ一緒という驚異のデータが出ています。この結果はレクサスのイメージを大きく変えることになりそうです。なんといっても相手が「ブレーキ王」のポルシェです。「RC-F」が「BMWZ4」や「メルセデスSLK」にブレーキングで互角であっても全然驚きませんが、相手が「ケイマン」ですからこれは価値がデカいです。「レクサスRC-F」はこんなにいいクルマだったとは!あとは車重が150kg軽ければ、がむしゃらに貯金したいですけどね・・・。ちなみに何で清水さんは企画の意図がわかっていないのか?というと、この自然吸気スポーツモデル対決の場に、完全なる部外者といえるクソ・ターボの「BMW M3/M4」や新型の「C63AMG」を持ち出してきたことです。

  ほかのライターもしばしば「レクサスRC-F」のレビューで引用していますが、「BMW M3/M4」や「メルセデスC63AMG」はレクサスの開発者としては一番比較してほしくない相手なんじゃないですかね。おそらくレクサスの開発者は3シリーズやCクラスをある意味で軽蔑しているはずです。レクサスRCは発売当初から、トヨタのアイデンティティとも言えるハイブリッドユニットが設定されていますから、「燃費を気にする人」と「官能を求める人」を完全に分けたマーケティングをしています。それぞれに高い顧客満足度を目指していて、その中で5LのV8自然吸気という魅惑のユニットが実現しました。一方で最新のBMWやメルセデスは高性能モデルであっても10km/Lを軽く超える燃費を出さなければ!みたいな曖昧さが介在しています。「RC-F」と「M3/M4」を不用意に同列に置くライターを見かけるとちょっとデリカシーが無いな・・・と感じてしまいます。

  さてBMWやメルセデスを脇役に追いやり、輝きを見せる「ケイマンGTS」と「レクサスRC-F」ですが、このルボランの企画で明らかになったのは、1000万円使えるなら当然に選択肢に入るであろう、自然吸気のスポーツエンジンを持つこの2台が、どちらも「未完成」だったということです。400kgも重い相手である「RC-F」に加速も減速も同等の結果を出された「ケイマンGTS」には、やはり不満が残ります。旧式フラット6エンジンを使い続ける限界と、ポルシェがここ数年なかなかモノにできていない可変ダンパーを組み込んだ足回りの開発に、まだまだ大きな課題があることがハッキリしました。一方で「RC-F」はあと150kgのダイエットでクルマの価値が数倍上がる(価格も上がる?)、けど現状では「峠」では使い物にならないという話です。

  しかし実際に、ドイツと日本それぞれの頂点といってもいい2台にケチが付けられるほどの「理想的なスポーツカー」はどこにあるのでしょうか? 先日ちょっと人生観が変わるような体験をしました。長野〜群馬の県境の峠をゆるゆると走っていると、なんと「V8ヴァンテージ」を見かけました。「こんなところにアストンマーティン?」めちゃくちゃビックリして、停止して道を譲ったあとしばらく呆然と見送りました。有名な碓氷峠ではなくて、かなりマイナーな県道124号です。峠区間にはかなり長い区間センターラインもありませんし、その日は土曜日でライダーもちらほらと駆け抜けていきます、あんまり無茶できるルートではないですけど、早朝に走る分には交通量も少なくて気に入っているわけですが・・・。

  そんなところに「ヘビー級スポーツカー」がやってくるなんて考えもしなかったですけど、この「V8ヴァンテージ」にとってはここが最良のステージだ!と言わんばかりの滑らかでリズムのいい走りをしていました。「アストンマーティン」ってこんなに器用なクルマなの!?ってのが率直な感想でしたが、家に帰ってあれこれ調べると、「全長4385mm、ホイールベース2600mm、車重1630kg」に加えて「自然吸気4.7LのV8」しかも「ドライサンプ」。なるほど!こりゃ凄いや・・・。

  レクサスはより究極的な「RC-F」を目指すなら、この「V8ヴァンテージ」を手本に、構造そのものの軽量化と、エンジンのドライサンプ化で低重心とすることで、よりピュアスポーツに近づけるのでは?と思います。「ケイマンGTS」はミッドシップゆえにフロント荷重に問題が起こりやすく、旋回性能にムラが出てくるので、それを電子制御で過度に抑え込む設計は、今では安全上必須なんだと思います。しかも911を超えてはいけないという制約がブランド内で存在するのでパワー一辺倒にも出来ず、しかも「トヨタ86」のような気持ちよく振り回せるモデルも人気になっている中で、いまいち「売り」がハッキリしないクルマかもしれません。

  ポルシェというのはやはり「アウトバーン仕様」が原則のスポーツカーであり、ボクスターに使われた「プロムナードカー」という表現も、「トヨタMR-S」や「ホンダS660」といったミッドシップ2座オープンスポーツというグループを指すものであり、絶対的な戦闘力を高める方向には構造的に持っていきにくいという「矛盾」を孕んでいるように思います。やはりフェラーリだ!ランボだ!マクラーレンだ!とばかりにミッドシップを特別視する風潮が続く限りは、日本の「峠」を楽しむ究極のクルマ作りは進んでいかないのかもしれません。「V8ヴァンテージ」という知る人ぞ知る「日本スペシャル」に、近いクルマを出したレクサスは今後も応援したいですし、ポルシェにも次に登場する中型セダン「パジュン」発売の際には大いに期待したいと思います。


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